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怠慢の王様

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小学生の時、図書委員だった。
当時は特別に本が好きというわけでもなく、どの委員でも良く、なんとなく決まった委員だった。そんなこともあり、俺のやる気はほぼゼロに近く、貸出係などの当番もほとんどサボって校庭で遊んでいた。責任感というものがやや欠けていた少年だったのである。

やがてそのツケが回って来た。朝の全校集会にて図書委員で劇をやることになり、誰が主役をやるかという段になったときに、図書委員当番の出席率がいちばん低いという懲罰的理由で俺が選ばれてしまったのだ。委員、満場一致の可決であった。俺はその結果に抵抗した。が、覆らなかった。題目は何だ、と聞くに『裸の王様』だという。それを聞いた俺はさらに抵抗し、今までの怠慢を弁解した。しかしそれは誰の心にも響かなかった。図書委員のみんなはニヤニヤ笑っていたようにも思う。ヒドい話だョ。

何故ゆえに多感な年頃の少年が全校生徒の前で間抜けな王様を演じ、パンツ一丁にならねばならぬというのか? 少年は自問した。答えはもちろん図書委員活動に対する怠業によるものであるわけだが、少年にはそれが納得いかない。納得いかないが、全校集会は確実にやってくるわけで、稽古もそれなりに頑張ったが、劇の結果はさんざんだった。今では思い出したくない思い出のひとつだ。

それ以来、少年は真面目に図書委員活動に励んだ。というわけもなく、懲りずにサボりまくるのであった。
当時、世の中はJリーグブームだった。Jリーグカレーも発売され、ラモスもおかわりしていた。佐賀にもその波は押し寄せており、クラスでもサッカーが大流行していた。俺も例に漏れず、当番をサボって校庭で球を蹴る日々だった。


事あるごとに「ちゃんと当番やらなきゃダメだよ」と注意してくれていた同じクラスの図書委員の女の子がいた。俺はいつも、わかっとうばい、とか何とか言いながら聞き流していた。
ある日、いつも通り教室を抜け出そうとする俺の腕を引っ張り、彼女は図書室に俺を連れていった。彼女は図書委員のいろいろな業務内容を、今さらながら教えてくれた。俺はイヤイヤながらも、無意識下に「もう裸の王様はやりたくない」という気持ちがあったのか、素直にそれを聞いた。そんな日が何日か続いた。

やがて俺は図書委員をサボらなくなっていた。図書委員の業務そのものにも意欲が出てきていた。好きな時に『はだしのゲン』が読めるのも気に入った。この世界にさまざまな本が存在することも知った。少年は変わったのだ。
それもこれも彼女のおかげだったろう。相変わらず図書委員のみんなとは馴染めなかったが、彼女とだけはわりと仲良く会話していたように思う。楽しかった。初めて知る楽しさだったかもしれない。
しかし、そんな日も長くは続かなかった。彼女が転校するという。

一学期だか二学期の終わり、クラスで彼女のお別れ会をやった。
会の最後に彼女はひとりひとり握手をしていった。俺の番だ。
俺は「今までありがとう」とだけ言った。すると彼女はこう言った。

「裸の王様、格好良かったよ」

俺はビックリした。それまであの劇を褒めてくれた人はいなかった。
後にも先にも彼女だけだった。

そんなわけで、俺の初恋はいつも図書室の匂いがする。







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2014/05/14 21:14 |遠くへ行きたいCOMMENT(3)TRACKBACK(0)  

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