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あの日の味


四月になり、春らしい気候の恩恵を得られるかと思いきや、ぐずついた天気が続いている。しかもこの先しばらくは続くそうだ。そうこうしているうちに春は終わるだろう。歳月流るる如し。

最近、よく思い出す事がある。小学校の同級生だった二又君の事だ。

あれは小学四年生の時だった。学校帰りに彼の家に行って三人ぐらいで遊んでいたら、誰ともなしに、お腹が空いたなぁ、ということになった。すると二又君はおもむろに勉強机の引き出しを開けるのだった。その引き出しの中には、たい焼き一匹が入っていた。何にも包まれていない裸のたい焼きがひとつだ。はっきり言って変だ。
どうして勉強机の引き出しにたい焼きを入れているのか、そもそもそのたい焼きはいつのなんだとか、色々と疑問はあったが、とにかく空腹だった我々は、たったひとつのたい焼きを分け合って食べた。ひどく乾燥しており、とても固かった。まるでビーフジャーキーのようだった。あんなたい焼きを食べたのは後にも先にもあの時だけだが、ともかく勉強机の引き出しに裸のたい焼きがたったひとつ入っている光景というのは印象的だった。それはまるでシュルレアリスムの「手術台の上のミシンとこうもり傘の偶然の出会いのよう」だった、と言えば言い過ぎか。

別の日だ。
また学校帰りに数人で彼の家に行き、遊んでいたら、これまたお腹が空いたなぁ、ということになった。今度はさすがに引き出しにたい焼きがあるわけでないし、二又君のところは共働きで、その時俺たち子供以外誰もおらず、おやつもなかった。駄菓子を買う金もない。万事休すかと思われた。しかし、二又君は自慢気にこう言った。

「お好み焼きを焼くばい」

彼は年齢の割りに大人びたところがあった。彼は宣言した通りに、お好み焼きを作り出した。小学四年生が、である。俺たちは驚きつつも二又君の一挙手一投足を見守った。彼は手慣れた手つきで、キャベツを切り、粉と卵を混ぜ、フライパンに油を引き……と料理をこなしていった、俺たちの目に映るそれはまるで魔法のようだった。
彼がとても大人に見えた。
出来上がったお好み焼きはきらめいて見え、味も美味しかったのを今でも覚えている。


やがて学年が上がり、違うクラスになった俺たちは疎遠になった。よくある話である。
数年が経ち、十六歳になった時、同級生づてに彼が死んだことを知らされた。
母親が家に帰った時に、玄関で倒れていたとのこと。死因も聞いたが、よく覚えていない。

今日俺は誕生日を迎え、三十五歳になったが、思い出の二又君はいつまでも自分より大人に見える。
彼は永遠に十六歳で、俺は年々、いたずらに歳を重ねる。
お好み焼きの作り方もよく知らないままに……




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2015/04/05 23:24 |遠くへ行きたいCOMMENT(4)TRACKBACK(0)  

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