あるいはバベルのワードファイル


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赤瀬川原平に『宇宙の缶詰』という芸術作品がある。(上写真)
蟹缶の中身を食べ、ラベルをはがして、内側に貼り直した後に、はんだで再び閉じたものだ。本来は外側にあるはずのラベルが内側にある事によって、この世界は反転する。内外が反転した結果、缶詰の中が宇宙になってしまう。鮮やかな発想だ。

ボルヘスに「バベルの図書館」という小説がある。
このタイトルにもなっている架空の図書館にある全ての本は22文字のアルファベットと空白、コンマ、ピリオドの25文字しか使われていない。本の内容はこの25文字によって組み合わせられる無造作な文字の羅列だ。もちろんそのほとんどは意味の無い羅列であるが、本の数は無限にある為、中には偶然にも秩序だったものも無数に存在する。よって、この図書館には世界でこれまで書かれた本、これから未来に書かれる本、その全てが揃っている事になるのだ。夢のような図書館だ。無限に続く本棚というのは悪夢のようでもあるようだけど。


前置きが何だか仰々しくなってしまったが、ここで卑近な俺の話に移る。
今日、職場の共用PCのデータの整理をしていると、 モニターに映るひとつのファイルが目にとまった。 いつだったか忘れたけれど、保存する際に設定パスワードを間違えた為に誰も開けなくなってしまったワードファイルだった。 幸いにバックアップがあり、業務上はことなきを得たが、 消去することを忘れていたんだろう。

二度と開かれることのないファイルの中身。
それは本来あるべき姿を失い、同時に自由を得て、 ファイル容量の指し示す範囲内での、ありとあらゆる文字の組み合わせのテキストになりうる。 ペローの童話よろしく開かずの間には死体の山があるのかもしれないし、あるいはツルが機織りをしているのかもしれない。いずれにせよ誰も確認できないのだから、どうにだって変化できる。
中世デンマークであって、太陽まぶしい海辺で、華のパリで、夏のサンクトペテルブルクで、木星行きロケットで、崩壊していくアッシャー家・・・・・・。
『宇宙の缶詰』さながら、ファイルは内へ内へと膨張していく。

今日もまた、世界中のあまたのうっかり屋さん達の手によって、『宇宙のファイル』が作られているのだなぁ。 そんなことを考えながら、ファイルをデスクトップのゴミ箱に放り入れる。
次の瞬間、ガリガリガリガリ・・・・・・という、どこからともなく聞こえてくる大きな音とともに、窓から見える青い空がドットになって消えていった。


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2016/01/21 00:39 |雑記COMMENT(2)TRACKBACK(0)  

コメント

へぇ、面白い^ ^いろんな本よく、読んでますね。
ってことは本を読んでそのようなことを空想できるpiopanさんの頭の中の宇宙空間と
わたしの宇宙空間の世界は限りなく違うんだろうな。
でもいまそのことを読んで知ったわたしの頭の中の宇宙もpiopanさんの宇宙世界に少し入れたのかな。
(^^;;まあ、とにかくいつも感心。少し脳みそわけてくれ!笑

No:225 2016/01/21 07:13 | ちさ #- URL [ 編集 ]

>ちささん
このブログの文章を少しでも面白いと思っていただけたのなら、俺とちささんの宇宙は多少は重なる部分があるのかもしれません。
脳みそはグラム130円で売りますよ!

No:226 2016/01/21 22:05 | pipopan #- URL編集 ]

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